仲間作り(1998年3月掲載)

 掲載から11年が経とうとしています。VHSのビデオテープは、やがて博物館行きでしょう。そういえば、昔はそんなテープを機械に挿入して映画を観ていたね、なんて会話をするようになるはずです。

 テープの中に文字データを入れることが、それなりに大変だった頃の話です。今ではDVDとなり、日本語と英語の両方を観ることができるのは、当たり前となりました。画面に英語の台詞が始めて出現した時には感激したものです。何度も何度も見直しました。

 黒澤明監督、小津安二郎監督などの作品は欧米でもファンが多いはずですが、輸出されるDVDには当然日本語字幕が出るのでしょうか? 日本語を学びたい、という外国の人には最高の教材なのです。いや、今ではアニメ作品の方が影響力が強いかもしれません。

 食事については、寿司が文字通り世界語になりました。Sushiで通るようです。イギリスの会社が欧米人向けの回転寿司チェーンを世界展開している、というニュースを先日放映していました。

 また香港の人の中には、香港に進出した九州のラーメンチェーン店の本社まで、わざわざ食べにやってくる、という報道もありました。健康的だ、として日本食は世界の憧れの的なのです。

 日本人が欧米食に浸りきってメタボで四苦八苦している状況は、実に奇妙奇天烈です。世界から憧れを持って見つめられているんだ、という自覚を日本人が持つことは、これからますます大切になってくるはずです。

(2009年1月)

ホームページ掲載時コメント

 先日インターネットでClosed Caption Decorderというものを購入しました。英語のビデオに組み込まれたせりふを画面に映し出す器械です。1万円でした。セット・アップに少し苦労しました。ビデオ装置がどの接続タイプかが自分で分かるまでに、30分ほど時間が必要でした。

 そして無事セットが終わって、画面に俳優の英語のせりふが登場した時には感激しました。留学していた大学時代の同級生が、以前お土産にと買ってきてくれていた、ロビン・ウイリアムス主演の映画、「Mrs.Doubtfire」が対応していると知った時には、彼に感謝したものです。飽かずに何度でも見ていると、知らないうちに英語の力が付いているようです。朝インターネット電話で友人と話していると、自分なりに分かります。

 アメリカの懐の深さを嫌というほど思い知らされる毎日です。

 先日Closed Caption Decorderと呼ばれる装置を買いました。何をするものかというと、テレビ番組やビデオに組み込まれた信号を読み取って、せりふを字幕として映し出す装置なのです。1979年にNCI(アメリカの非営利団体)が開発した、聴覚障害者向けのアメリカ公式文字放送であるこのシステムは、現在14インチ以上の全てのテレビに設置が義務づけられており、テレビ番組も夜のゴールデンタイムの放送では、すべての番組が対応しているようです。

 日本語に対応しているわけでもないこんな器械をなぜ購入したかというと、それは英語の学習に最適だからです。普通にアメリカ映画を観ると、私の英語力では何を言っているのか99%理解できませんが、この装置でせりふを同時に見ることができれば、半分ほどは理解できます。英語を外国語として学ぶ人々に取っては、現在最高の学習材料なのです。

 もともとは障害者のために、と開発されたこのシステムが、英語を学ぶ仲間作りに力を発揮しているわけです。映画やテレビ番組にはその国の文化が映し出されるわけですから、このシステムを通じてアメリカに親近感を抱く人も多くなるわけです。先日カナダのロイさんと話をしていて、退職者であり70歳を越えた彼が、日本語を勉強したいのだが町の本屋さんに行っても適当な教材が無い、と嘆いているのを聞いた時、日本語にもこのシムテムがあれば、黒澤明や山田洋次監督の映画ビデオを送ってあげられるのだが、と残念でならなかったのです。

 私は常々思うのですが、日本はもう少し仲間作りに上手にお金を使うべきではないでしょうか。遠回りのようでもこうして自国語を少しでも理解する人々を増やすことが、やがては自国の文化を理解し応援してくれる仲間を増やすことに繋がるのです。国を守るのは何も軍隊だけではありません。日本の文化に触れ親近感を抱いてくれる人々を世界に一人でも多く持つことが、やがては日本の安全を支えてくれるのです。日本文化や魅力ある日本人がこの世から消え去ることを惜しむ世界の人々こそが、日本を守ってくれるのです。こうした観点から考える時、残念ながら日本の将来は大変暗いのです。多くの優れた大衆商品の販売努力に比較して、日本語や日本文化を広める努力が、あまりに乏しいと言わざるを得ないからです。障害者のために、と開発されたこのシステムが世界的規模で仲間作りに貢献している現実は、今の日本に欠けているものを暗示してはいないでしょうか。

TO:随筆の部屋