巡航ミサイル・ハリウッド・ウインドウズ

(2003年1月掲載)


 先日ネットで面白い記事を読みました。確定申告をネット経由で済ませる国税電子申告・納税システム(e-Tax)についての記事です。執筆者はアップル社のマックと呼ばれるパソコンの利用者なのですが、何とこのマックからは未だに確定申告ができない、というのです。

 ネット経由で確定申告するには、ウインドウズ・パソコンを使用するしかないようです。実に不思議でおかしな話です。ウインドウズを排除しろ、と言っているのではないのです。ウインドウズ以外のパソコン、例えば私のパソコンはリナックスという公開された無償の基本ソフトで動いていますが、そうしたパソコンからも利用できるようにするのが本筋なのです。

 未だに、こんなことがまかり通っていることに驚きを覚えるとともに、所轄しているお役所の時代遅れの頭の固さには飽きれるばかりです。市役所で利用される文章の殆どは、マイクロソフトのワードというワープロで作られています。アメリカの一私企業の製品が公共的な機関で未だに事実上の標準となっていることに、驚き呆れるばかりです。
 
 もちろん、会津若松市のように大事な税金の有効活用を図るべく、積極的にオープンな製品の利用を試みている地域もありますが、大海の一滴です。

 会津若松市では、パソコン導入時の費用削減と、パソコン文書の管理効率化を目的として、無償で利用できるオフィスソフト「オープンオフィス」を全庁的に導入したのです。

 詳しくはこちらをご覧ください。

会津若松市の発表

 これは単なる経費削減に止まらない国防上の観点すら絡んでいるのです。

(2009年3月)

ホームページ掲載時コメント

 3月20日に始まったイラク戦争は、当初の短期終結の予想を裏切って、長期化の様相を呈しています。圧倒的なハイテク軍事力でアリを踏みつぶす象のようなアメリカ軍も、他国を占領するとなると、クエートからイラク軍を追い出した湾岸戦争のようなわけにはいかないのでしょう。

 アメリカと付き合っていくのは、冷戦が終了した今となっては、なかなかに難しい問題になってきました。冷戦時は選択肢が他にありませんから、思考停止の状態でも、何ら問題がなかったのですが、EUのようなバックを持たない日本が、これからアジアの中でどのように国益を守っていくのか、ただただ追従しているだけでは、危険な気もします。
 
 まずはアメリカという国の持つ強さと弱さの分析から始めましょう。

 それにしても、アカデミー賞の授賞式には驚きました。長編ドキュメンタリー賞を受賞した、マイケル・ムーア監督の受賞挨拶は、日本では考えられないほど過激なものでした。そのような発言を許すアメリカの大らかさというのは、日本のようにともすると毛色の変わったものを排除しやすい体質の国にいると、とても新鮮にそして素晴らしいものに思えます。


 イラクへの米英軍の軍事行動に抗議して、米国製品の不買運動を呼びかける声がインターネットに流れている、との記事を読みました。こうした不買運動は心情的には理解できるものの、稚拙であるばかりでなく、いささか滑稽にすら私には思えるのです。なぜなら、こうした不買運動を呼びかけるメイルの95%は米国製の基本ソフト、ウインドウズによって稼働しているパソコンから発信されているからです。まるで、 1950年代のキャデラックに乗りながら、地球温暖化の危険性を説いて回るようなものです。

 冷戦の終結により唯一の超大国となったアメリカの行動を諌められる存在は無くなった、とも言われます。EUをバックに仏・独が、かろうじてノンと言い張ったものの、古臭い欧州、と一蹴されました。軍事力では誰も及ばない米国の強さを支えるものは、しかしながら決してそれだけではないのです。私流に三本柱を挙げれば、それが巡航ミサイル・ハリウッド・ウインドウズなのです。

 今回ノンと言い続けたフランスは、またアメリカ製音楽、テレビ番組の放映に関しても厳しい制限をかけています。グローバリゼーションが進むなかで、「文化的な例外」を擁護し、ラジオではフランスの音楽を少なくとも40%流すという割当を定め、またテレビでは外国、特に米国からの映画とシリーズの放送を制限していました。アメリカ流生活様式は映画・テレビとともに世界に拡がって行ったのです。

 そしてウインドウズです。年間一億台が販売され、世界中の生活をまさに根底から変革しつつあるパソコンの95%は、この米国製の基本ソフトで動いています。一私企業の製品ですから特許に固く防御され、その中身を窺い知ることはできません。化学構造の分からない医薬品で患者さんを治療し続けているようなものです。国の基本骨格たる住民基本台帳ネットが、日本ではこのウインドウズで稼働している事実は世界の笑いものになっている、という指摘もあります。中国とアメリカがもし将来戦争状態に入ったら、アメリカはインターネットを通じてウインドウズで稼働する中国のパソコンを発狂させ社会を大混乱に陥れることにより勝利を画策するのではないか、と江沢民国家主席が深刻に苦慮している、との報道が流れました。良くできたジョークではすまないそら恐ろしさが、そこにはあるのです。

 不買運動などを呼びかけるより、リナックスなどのオープンな基本ソフト使用を推進する事の方が、よほど焦眉の急なのです。国家の安全保障とは、某国からのミサイルに備えるだけではない、という事実に、私たちは一刻も早く気づくべきなのです。



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