2019年に続いて二回目の講話を、大平中学校で行う機会をいただきました。2008年から続けているベトナム枯葉剤被害者支援の旅の報告です。佐藤正和校長ご自身が、中村梧郎著「母は枯葉剤を浴びた」を以前から大切に読み続けてこられたことから、私たち支援隊の活動に興味を持たれ、声をかけてくださいました。前回と同様、全校生徒が体育館に集まり私の講話を聞いてくれました。前回初めて話しを聞いた環境福祉委員長、副委員長が全生徒に呼びかけて募金を開始し、今回その成果を皆さんの前でいただきました。また講話前に、卒業生としての二人の思いはビデオメッセージで皆さんに披露されました。

 講話後には、前回と同様に全生徒さんから感想文をいただき、みなさんの思いを知ることができました。被害者の存在自体を知らなかった生徒も多かったのですが、貧しさの中で誰からも顧みられることなく忘れ去られているのではないかという不安が、400万人を超えるといわれる被害者にとって一番つらいという私の指摘に、とてもよく共感してくれました。自分たちがベトナムへ行って支援することはできないが、募金活動を通して支援することならできると、そこには書かれていたのです。今まで知らなかった現実に反応し一歩を踏み出すことは、誰にとっても容易なことではありません。他者を思いやる生徒さんたちの優しい心に、私自身も心洗われる思いでした。

 遺伝子損傷により、その被害が自分たちと同世代にも出現している、遠く離れたベトナムでの現状を知ることで、家族、友人など身近な人々、そして身の回りの環境を深く考えることができるようになった、という指摘もありました。何事もなきかのごとき平穏な毎日の日々のありがたさを痛感した、という言葉も多くありました。同時に将来の自分のあり方を、生徒の皆さんはしっかりと考えてくれたようです。

「愛の反対は憎しみではなく無関心だ」というマザー・テレサの言葉に、強く反応してくれた生徒さんも多くいました。生きることは関心を持つことです。全ての事に関心を持っていては時間が足りないし、何事にも関心を持たなければ生きている意味がない。関心を持つことから関わりを持ち、そして行動の一歩を踏み出す。生きる事は、その繰り返しでもあります。

 話の内容は、遠い遠いベトナムでの出来事ですが、そんな時空を超えた場所や人々に思いをはせることができることこそ、チンパンジーとホモ・サピエンスとを分かつ決定的な違いだ、とは京大霊長類研究所・松沢哲郎所長の研究結果です。

 多くの生徒さんが、そのように被害者に思いをはせ、募金活動という具体的な活動に一歩踏み出してくれたことを大変嬉しく思いながら、二回目の講話を終えました。



2021年1月27日 沼津朝日新聞 「言いたいほうだい」