アイルランドへの道 (1998年10月掲載)

 はるか昔のような気もします。最近はリチャードさんと話すことも無くなりました。どうしても億劫になってしまうのです。何しろ英語で話さなければなりませんから。

 しかし、最近 iKnow というサイトを新聞で知りました。無料で英語のレッスンが受けられる、というサイトです。ゲーム感覚で能力を向上させられます。毎日少しずつ、初級から受け直しています。

 少し自信を取り戻したら、またリチャードさんにSkypeしてみましょう。

(2009年1月)

ホームページ掲載時コメント(1998年)

 6月の国際眼科学会の帰りに、アイルランドへ行ってきました。

 リチャードさんがぜひ遊びに来い、っと誘ってくれたのです。日本人なら言葉だけの誘いだろう、と受け流してしまうのですが、彼の人柄からすると本気の様です。ここはいっちょう思い切って行ってみようと思いました。

 正直、心配でなりませんでした。行ったこともないアイルランドへ、一度も会ったことの無いリチャードさんに会いに行くなんて、かなり無謀な行動であるのは承知の上です。それでも彼の言葉を信じて行ってみようと思わせる誠実さが、彼の言葉には溢れているのです。

 オランダのスキポール空港は今やヨーロッパのハブ空港。市内からも鉄道や路面電車で20分ほど。日本の成田空港の様に、いつ着くか検討も付かないような空港とは大違いです。当日少し早めに空港へ行ったのですが、突然予定便がキャンセルになったとのこと。すったもんだの末、アイルランドのコークに着いたのは、激しく雨が滑走路を叩く夕闇の中でした。

 学会の帰り道、アイルランドに先日行ってきました。かの地に住むリチャードさんが、遊びにこないかと誘ってくれたのです。一度も会ったことの無い彼のために、なぜわざわざアイルランドにまで出かけたのか。それには3年余りにわたるインターネット上での交流が合ったのです。

 始めて言葉を交わしたのは、本当にひょんな事からでした。当時、始めて間もないインターネット電話の出会いの広場で、たまたま彼の名前を選択したのがきっかけでした。アメリカに生まれ、大学ではアジアを専攻し仕事の関係で台湾に長く住んでいたリチャードさんには、教わるところが大でした。そんな彼が、66 歳になる今年アイルランドに移住することになったのは、ロンドン生まれながら、もともと両親をはじめ一族がアイルランド出身の奥さんの希望でした。

 予定では、オランダのスキポール空港からロンドン経由で、アイルランドのコークへ向かうはずでした。ところが当日空港へ行ってみると、何と予定便はキャンセルになったとのこと。受付の話では臨時便が出るので心配はない、と言うのですが、乗り継ぎをしなければならない私は、心配でたまりません。そんな時、待ち合いロビーである老人が、臨時便はロンドン・シティー(LC)空港に着くので困る、と息巻いています。実はその時まで、ヒースロー空港など四つの飛行場がロンドンにあることを、私は知らなかったのです。予定便はスタンステッド空港に着く予定でしたが、臨時便はLC空港に着くらしいのです。慌てふためいてカウンターに駆け込み拙い英語で聞きただすと、すべて手配済みなので何の心配も要らないとの説明。とにかく待つしかありませんでした。

 ようやく臨時便が出発したのは、予定時間を3時間近く過ぎて後。そしてロンドンに到着したのは、乗り継ぎ予定時刻の25分前。乗り継ぎ空港までは高速道路をどんなに飛ばしても50分は最低かかる、との話。これでリチャードさんとは、ひょっとするともう会えないかもしれない、と覚悟を決めたところ、移動のタクシーに乗りあわせたイギリス人が、「君はラッキーだ。オランダとイギリスでは一時間の時差があるからね」と教えてくれたのです。実は、残り時間は二十五分でなく一時間二十五分だったのです。

 高速道路を飛ばして空港に着いたのは、出発の二十分前。ほとんどを高速道路上で過ごした一時間ほどのイギリス滞在の後、駆け込むように搭乗したアイルランド行きの飛行機は、タクシーを追いかけるようにしてやって来た夕闇を振り切るように、こうしてロンドンをあとにしたのです。


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