マレーシア上空にて(1996年4月掲載)

 もう13年近く前の原稿ですが、決して古びていないと思い驚きました。昨年後半からの100年に一度と言われる金融危機。年末には派遣切りという言葉がテレビ、新聞紙上を独占しました。

 調べてみると1996年は、

1月には、

・ NASA のスペースシャトル「エンデバー」に若田光一 宇宙飛行士が乗船(11日)
・ 橋本龍太郎 首相内閣が始まる(11日)

とあります。

4月には、

・三菱銀行と東京銀行が合併し世界一となる資金量53兆円銀行「東京三菱銀行」が誕生(1日)

5月には、

・ 住宅金融専門会社処理の6850億円を盛り込んだ1996年度予算案が成立、大手借り口の不動産会社社長らが逮捕(10日)

 バブルが弾け不良債権処理が最大の懸案になっていました。96年から今までに日本人は、どのように家庭と向き合ってきたのでしょうか。わが身とあわせて省みる必要がありそうです。

(2009年1月)

ホームページ掲載時コメント

 所要でマレーシアへ行く機会を得ました。帰りの飛行機のなかで、ある商社マンの方と話す機会を得ました。いろいろな興味深い話を聞かせてもらいました。

 戦後の日本を駆け抜けて来た、現役商社マンが語る現代の日本の状況は、大変示唆に富むものでした。豊かにはなったが、苛立ちの消えない昨今の日本。人間としての気品が失われているのではないか。どうしてそんなことになったのか。そんな中での思いです。

 先日所用で、マレーシアに行ってきました。帰りの飛行機の中で、たまたま隣に乗り合わせた商社マンの方と、話す機会を得ました。欧米を始め世界中を仕事で飛び回った経験があり、現在は東南アジアを主な舞台に仕事をしているとのこと。そのAさんに、日本とマレーシアの違いなどを伺うことができました。

N「日本と比較してどんな違いを感じますか?」

A「まず家族に対する考え方ですね。日本では家族の中に父親というものが存在していません。仕事で夜中まで家に帰らず、朝は子どもが起き出す前に出社。彼らに言わせると、『いったい何のために働いているのだろうか?』となります。ここでは仕事が終われば家に直行し、家族と一緒にゆっくりと夕食を楽しむ、というのが当たり前。仕事だ、付き合いだと言って家族と時間を過ごさないのは、彼らには考えられないのです。」

N「私も以前、近所にあるプールのシャワー室で、サラリーマン同士のこんな会話を耳にしました。『最近は残業も無いので、仕事が終わるとすぐ家に帰らざるを得ないのだが、帰ってもすることはないし居場所も無い。結局、こんな所に来て時間を潰すしかないのだ』、と言うのです。どうも日本では家庭内での父親の居心地が悪いようですね。」

A「それが一番の問題点ではないでしょうか。今、社会的に様々な問題が噴出していますが、この父親の不在がかなり影響しているはずです。子育てを放棄しているわけですね。それでいて、親は世間体ばかりを気にして、一人の人間としての子どもの将来を真剣に考えていない。子どもにとって本当に何が幸せなのか、それを考えていないのです。子どもはそれをちゃんと察知しています。偽善を見抜いているわけです。本当に何をしたいのかに気付くまで、私自身は子どもを高校にもやりませんでした。当地の英国人技師の家庭にホームステイをさせ、自分自身で考えさせました。」

 オウム事件、子ども達のいじめや自殺などの報道をみる度に、今の日本はどこか間違っている、と多くの日本人が考えています。こうしたAさんの指摘は、そんな現在、大変重要に思えます。我々が思っている当たり前が、日本という島国から出てみれば、決して当たり前でもなんでもなく、実はとてもおかしな事だということが沢山あるのです。根本から、考え直してみる必要がありそうです。「食事をともにする人々」が、ヨーロッパでは家族の具体的な姿としてあり続けてきたという、ある歴史家の言葉を思い起こした、帰国の旅でした。



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