昨年12月リコー通りでテスラ車を、この眼で初めて見ました。アメリカの電気自動車メーカー・テスラの車です。2022年は日本における、電気自動車(EV)元年になりそうです。医師会員の先生方でも、EVに乗られている方は、さすがに極めて少数派です。しかし世界を見渡すと、状況は異なります。

 例えば中国では、2021年だけで300万台以上のEVが販売されました。年間300万台というと、日本の自動車販売台数が1年間で520万台(2019年)ですから、中国のEV販売台数は、日本の全自動車販売台数の、ざっと6割弱ぐらいの規模に達しているのです。そして、その普及は加速度的に増加しています。残念ながら、その中には日本製のEVは、ほとんどありません。米国製、中国製、あるいはドイツ製です。日本で購入できるテスラ車も、今では上海工場で製造されています。中国で製造されたEVは、ヨーロッパへも輸出されています。ヨーロッパの機関において、その安全性にもお墨付きを得ています。安かろう悪かろうではないのです。地球温暖化を避けるためにCO2を減らす取り組みが、世界的な合意を得た今、ガソリンエンジン車が今後も生き残るのは、極めて難しくなりました。

 昨年末、米タイム誌は「今年の人」に、米EV大手テスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)を選びました。大風呂敷を広げることで有名なマスク氏は、投資家との会合では、「かなりの期間にわたって最低でも年間 50 %の増産ペースを維持するのは可能であり、スポーツタイプ多目的車( SUV )のモデル Y は 2023 年までにカローラを抜いて、世界で最も売れる車になる」と発言しています。

 ハイブリッド車先進国・日本に住んでいると、EVなど遠い将来の話だ、と思いがちです。しかし温暖化問題に取り組む欧州、特に北欧では状況は一変します。EV先進国と言われるノルウェイでは、昨年11月の新車販売台数の実に 73.8 %がEVであり、プラグイン・ハイブリッド車と合わせると、90 %を超えています。日本では考えられません。

 日本の屋台骨を支える自動車産業が、いま大きな岐路にさしかかっています。1970年代、アメリカの排ガス規制法案、マスキー法を逆手に取って世界に進出した日本の自動車産業に、CO2削減という難題がのしかかっています。紆余曲折はあるにしても、EV化の波は津波のごとく襲いかかってきます。しかもEV化は単なる通過点に過ぎません。自動運転を含めて、どのようなサービスを構築できるのかが勝負であり、それはソフトウェアの出来にかかっています。日本の最も不得意とする分野です。

 前回の排ガス規制の時代には、中国も韓国も、国内情勢のために蚊帳の外でした。現在の状況は、全く違います。冷戦も終わり、解き放たれた両国の経済は、大きく成長しました。EVに欠かせないバッテリーの生産量では中国と韓国が、いまや大きなシェアを占めています。両国のバッテリー無くして、EVは生産できないのです。1980年代、ジャパン・アズ・ナンバーワンと謳歌した繁栄も、日本人の優秀さと勤勉さだけではなく、時の味方があったのです。今こそ、日本人の真価が問われているのです。

沼津医師会報 2022年1月号 編集後記