■沼津医師会報の編集後記は、役員が順番で担当しています。2024年2月号は私の番でした。古希を迎えての現状を綴りました。誰も読んでくれないかと思いきや、親族の方が同様に体調の不具合で苦しんでいるので詳しく教えてほしい、と小児科の先生が話しかけてきました。少しはお役に立ったかも知れません。

■■■■■■■■■■■

「それで、この私に、いったいどうしろと言うのだね?」

 黒澤明監督作品「天国と地獄」で冒頭、会社乗っ取りを企む居並ぶ会社の重役連に向かって、主人公役の三船敏郎が言い放つ言葉です。昨年11月に開催された、沼津医師会・長寿祝賀会において、加藤公孝会長より古希のお祝いをいただきました。その後、心に浮かんだ言葉が、このセリフだったのです。

 2年ほど前から、原因不明なのですが体調を崩し、今まで健康のためにと月100キロ走を続けていたものの、その気力が急激に萎えてしまいました。それまで、早朝走っていた学校のグランドが、遥か遠くに感じられ始めたのです。熟睡できず、早朝になると動悸に襲われ、検査するも器質的疾患は無し。ちょうど坂道で、まるでエンジンブレーキが掛かり始めたようでした。藁にもすがる思いで中医師の診察を受け、体が冷えているとの診断の元、漢方薬の処方を受けました。その後、自作の温野菜をお椀一杯、毎朝摂るなど食生活を変え、腸活に励み、睡眠環境を改善し、ようやく走る気力も戻ってきました。昨年12月には、1年ぶりに月100キロ走を再び達成することもできましたし、昨年5月から始めたフィットネスクラブでの筋トレも、軌道に乗ってきました。

 映画では、誘拐犯への理不尽な身代金支払いを決断し、そのことによって、全財産と社会的地位を失うことを決断した主人公が、身代金を詰めたカバンに、特殊な薬物の入ったカプセルを、犯人に気づかれないようにと、細心の注意を払って埋め込みながら、こうつぶやく場面があります。

「昔はね、靴屋はカバンも作らされたものですよ。これで全く、また一から出直しだ」。

 私は全財産を失ったわけでも、社会的地位を失ったわけでもないのですが、古希を祝っていただいて感じたのは、「また一から出直しだ」、という強い思いです。下半身の衰えから、晩年の父が自力ではトイレに行くことすら、ままならなくなった姿を見て10年前、「還暦でフルマラソン」を掲げて本格的に走り始めました。週末、仕事を終えてから、ランニング・リュックを背負って一人、電車に乗って出かけ、ビジネスホテルに泊まり、翌日午前中に大会に参加。走り終えてからコーヒー牛乳を飲んで、電車に乗って帰宅する。そんなことを続けて、61歳で最初のフルマラソンを完走しました。

 そして体調を崩して、古希を迎えたのです。ちょうど良い節目だったのです。今年は以前のようにリュックを背負って、また一から出直しの一年になりそうです。

■■■■■■■■■■■