アイルランドの白馬

アイルランドはカトリックの国としてイギリスから激しい差別と搾取を受けたことで知られています。このあたりは司馬遼太郎さんの「街道をゆく〈30〉愛蘭土紀行」に詳しいので、ぜひお読みになると良いと思います。

そのアイルランドも最近はEUの中でも優等生的な経済発展を遂げたのですが、どうも昨年来の金融危機で状況は一変しているようです。

リチャードさんの家は、ここコーク州にあります。

 

アイルランドの海岸にて

 

ゆうゆうと白馬が海岸を闊歩していました。

 

アイルランドはイギリスによる過酷な支配から流出する移民が後を立たず、北海道ほどの広さの本国には400万強の人口ながらアメリカには、その10倍の4,000万近い移民が暮らしています。ケネディー、レーガン、クリントンの各元大統領もアイルランド系です。

ケルト民族による欧州大陸とは異なった文化を持ちつづけ、文学の国でもあります。ノーベル文学賞の受賞者として、W・B・イェーツ(1923年)、ジョージ・バーナード・ショー(1925年)、サミュエル・ベケット(1969年)、詩人のシェイマス・ヒーニー(1995年)と何と4名もの人が受賞しています。

気候温暖で2005年の英エコノミスト誌の調査で最も住みやすい国に選出されているアイルランドは、国中がまるでゴルフ場。Wikipediaによれば、

「「「温暖なメキシコ湾流と、大西洋から吹く偏西風の影響で気候は安定した西岸海洋性気候となっており夏は涼しく、冬は緯度の高い割に寒くない。また、地域による気候の差もほとんどない。もっとも寒いのは1月と2月で平均気温は4〜7℃程度であり、もっとも暖かい7月と8月の平均気温は14〜17℃程度である。最低気温が-10℃より下がることや、最高気温が30℃を超えることはほとんどない。」」」

リチャードさんの家はちょうど普請中。ほとんど独力と言っても良いほどの手の入れよう。のんびりしたものです。ということで、私はリチャードさんが取ってくれたB$B(Bed and Breakfast)といわれる民宿に泊めてもらいました。清楚で清潔な気持ちの良い宿でした。3日間ほどの滞在でしたが、実に新鮮で心温まる交流ができました。その様子は、以下の投稿原稿「アイルランドの白馬」でご覧ください。

 

沼津朝日新聞 「アイルランドの白馬」

 

 学会の帰り道、友人のリチャードに会うために立ち寄ったアイルランドのコーク空港は、雨の中でした。飛行機は予定を一時間程遅れて、静かにアイルランドの地に舞い降りたのです。到着口へ急ぐと、大勢の人が出迎えにきていました。一通り見渡したのですが、リチャードさんらしき人は見当たりません。

しばらくすると、一人の上品そうなご婦人が近付いて来ました。「スキさんですか?。リチャードの家内です。主人がお会いできるのを楽しみにしていました。」そして、彼が現れたのです。「スキ!!よく来たね!!」思わず男同士で抱き合ってしまいました。こうして三年あまりのインターネット上での交流の後、始めて彼と会うことができたのです。

ほんの二週間ほど前に引っ越して来たばかりで、家は改装工事の真最中。前日、間違えてかなづちで指を叩いてしまったそうで、包帯が痛々しげでした。夕食はそんな訳で、入江に面したこじんまりしたレストランで、アイリッシュビールと海の幸を楽しみました。ロンドン生まれでフランス語、スペイン語も自由に操る奥さんのグレースさんは、アイルランドの人々のありようが、まだまだ珍しげで興味津々といった様子でした。

翌日はリチャードさん自ら不自由そうな手で運転をしてくれ、半日ドライブを楽しみました。アイルランドの南部にあるコークは見渡す限り平坦な草原が続く、ゴルフ場のような地方でした。2時を過ぎ、大西洋を臨む見晴らしの良い喫茶店でお茶を飲みました。父親の様な包容力を持った彼には、ついつい子育ての愚痴などをこぼしてしまいます。そんな時、もう子育てから解放された彼は、自分自身の経験を話してくれたのです。

「自分には三人の息子がいるが、一番下の息子が大学在学中に突然、大学を止めて仕事につきたい、と言い出した」そうです。その時の戸惑い、苦悩。そして話し合いの中で、結局は自分の好きなことに打ち込む事が一番彼のためになる、と結論するに至った父親の心境などを率直に語ってくれました。今では仕事も順調で、息子さんも自分の決断を後悔していないとのこと。唯一のお孫さんであるその息子さんの子どもが、可愛くてならないようでした。そしてアメリカで活躍する3人の息子さんの話に花が咲きました。

おのれの人生を切り開くのは結局子ども達自身であり、親にできる事は自分の生き方を通して、人生を考える何かヒントを示すことだけではないか。親である自分自身が精一杯生き、自分らしくあり続けることこそが一番の子育てなのだろう、と彼との会話を通して自分なりの結論を得ました。

そんな事を考えながら、ふと窓の外に目をやると、大西洋の波が打ち寄せる砂浜には、三頭の白馬が潮風を楽しみながら悠々とたたずんでいました。6月の爽やかなアイルランドでの、それは思い出に残る語らいのひとときでした。

 

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