■ いいたい放題 ■
ベトナム枯葉剤被害者支援の旅に六名の仲間とともに、今年も出かけました。昨年同様バクザン省職業訓練センターを中心に、女医でもあり施設長のトゥイさんが選んでくれた 14 軒の被害者家庭を訪問し、家庭状況を確認の上、皆様から寄付していただいた医薬品や生活支援金を、お渡ししました。
センターでは医薬品の贈呈とともに、障害を持った子ども達と運動機能回復のための音楽療法、そして私は子ども達や職員の皆さんの眼科検診を行いました。被害者家庭訪問では、排泄など身の回りの世話を全て家族が行っていたのが 14 軒中 7 軒。その内の 5 軒では、ほとんど寝たきりで終日ベッドの上で生活しており、家族の負担は大変重いものでした。
その中の一人、グエン・バン・カン(男性)さんは 1972 年生まれで 45 歳。母屋とは別の小屋で一人暮らし。放置していると徘徊してしまうので、普段は鍵を締めて閉じ込めてある。母は七四歳。父は南部カンボジア近くで従軍、枯葉剤に被曝し、その後 31 年前に死亡。カンさんは知的障害のため、食事のコントロールができない。大きな声を出すが暴力をふるうことはない。排泄の始末ができないので世話が大変だ。毎月 140 万ドン(約7千円)の支援金。収入は支援金のみの生活。人民委員会に増額を要請したが断られた。母親の年金は無い。カンさんも以前は薬を服用していたが、効果がないので止めた。母親は米を作って生活の足しにしている。夫が死んだ後の子育てが一番たいへんだった、とのこと。父方の祖父が手伝ってくれた。母方の祖父はフランスとの独立戦争で戦死。そして夫も被曝した枯葉剤の後遺症で死亡。夫の実家に現在住んでいる。
1887 年フランスによる植民地支配が確立、その後のフランスとの独立戦争、そしてアメリカとのベトナム戦争が集結した 1975 年のサイゴン陥落で、ようやく百年ぶりの平和をベトナムは取り戻しました。植民地時代には庶民の暮らしは徹底的に収奪され、政治犯収容のためにフランスはひたすら監獄を作り続け、1910 年からの十年間、毎日三人の政治犯がギロチンによって首を切断された計算になる、と言われています。そしてベトナム戦争での枯葉剤の散布です。樹木の葉を枯らすだけだ、と喧伝された枯葉剤は、遺伝子を損傷し、未だに被害者の発生は止む気配がありません。ベトナムは苦しみ続けているのです。
いったん戦争が始まれば、敵も味方もありません。開始を命じた人間は天寿を全うしても、戦った人間たちは、子々孫々まで苦しむことになるのです。
我々はいつの時代にも、歴史に学ぶ必要があるのです。